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新たなスタートライン

一般社団法人 日本合唱指揮者協会理事長

名島啓太

2023年、日本合唱指揮者協会は創立60周年を迎えました。60年前、私はまだ生まれていませんでしたが、10年前に発行された50周年記念誌に掲載されている多くの貴重な記録や資料、歴史を築いてこられた諸先輩方から寄稿された数々の感動的な文章、いつも身近にいてご指導くださる先輩方から直接間接にうかがった数々のエピソード、そしてわずか25年ではありますが、多くの合唱を愛する仲間たちと共に私が協会で実際に経験した様々な出来事を通じて、この60年間が合唱音楽の発展のため、そして合唱指揮者として生きる道を照らし続けるための様々な努力と挑戦の連続だったことを知っています。

特に最近の10年間は、社会やテクノロジーが急速な変化を遂げ、世界的な感染症の流行や世界各地における紛争なども起き、私たちが直面する課題はさらに複雑化したように感じられます。実際のところ協会の運営もまた、特にコロナ禍においては、前例のないことが次々と起き、非常に難しい判断が迫られることが多く、困惑の連続でした。しかし、社会的な分断や孤立感が深まり、人と人とのつながりが薄れゆく今のような世相であるからこそ、「人々が共に言葉を唱え、同じ時間を生き抜くいとなみ」(第8代理事長・清水敬一先生のお言葉・50周年記念誌より)である合唱の、その役割は鮮明となり、人と人を結びつけることに力を発揮することができるのではないでしょうか。

合唱は、人間の声を楽器とした至高の芸術に触れられる機会であり、それを仲間と共に目指し挑戦できる活動であり、素晴らしいコミュニケーションであり、エンターテイメントであり、身心の健康に寄与し、音楽自体のことはもちろんのこと語学や言語など様々なことを学ぶことが出来、文化や伝統を継承することであり、地域のコミュニティを醸成することであり…その果たすことの出来る役割の領域は非常に広く大きく、ごく一部の愛好家のものであってはもったいないと思います。コロナ禍という深刻な状況が新たな局面を迎えた、日本合唱指揮者協会創立60周年の今こそ、全ての人に合唱の魅力を伝え、改めてその真髄を学び、若い世代につないでゆく大きな一歩を踏み出すべきタイミングと思います。

協会創立50周年の時は、その歩みを振り返り、その歴史と年月の重みを改めて感じましたが、創立60周年の今は、協会が還暦を迎えたということであり、年月の重みを感じると同時に、人生の新たなスタートラインに立ったような、未来への希望と活力を感じる新鮮な瞬間がやってきたように感じられます。これからも皆様と共に、喜びも苦難も分かち合いながら、歌声あふれる平和で温かい社会を夢見て、合唱指揮者として果たすべき役割を模索し、精進を続けたいと思います。

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